人っ子一人いないアークスシップの市街地を駆け抜ける、というだけのもの。
夢を見た
夢に良く知った人が出てきた。
フェイドだ。
出てきたのは久しぶりだ。たいていは、昔の記憶をなぞるような内容で目新しいことはない。
今日見た夢は違った。
いいかい、エオ。今、君が置かれている状況は極めて特殊なものなんだ。時間も空間もあまり、意味を持たない。別世界の出来事がこの世界での出来事になっている。そういう経験をしているはずだ。君が今、思っていることが、感じていることだけが正しさを持つ。そういう状況だ。でも、大丈夫だ。君にはそれを乗り越えるだけの力と仲間がいる。不安に思うことはないよ。
そんなことだけを言って、一方的に言うだけ言って彼は去っていった。
いつでもどこでも身勝手な、本当に身勝手な人だ。
でも、その身勝手の血は自分に流れていると思う。引き継いでいるのは名前ぐらいだって考えてたけど、勘違いだったみたい。
名前に込められたもの
リンから名前の由来を聞かれた。たぶん、戦っている時にエオの名を侮らないで、と叫んだのが聞こえていたんだと思う。
とある言葉で忍耐を意味する言葉だと答えた。フェイドはその意味を込めた、と言っていた。調べてみると、いくつか意味があるようだけれど。
意味を聞いてリンはしばらく考えて、意味を知っているのがうらやましいというようなことを言った。気になったから理由を尋ねると、わたしは聞けていないから、と返って来た。一瞬、地雷を踏んだかな、と思ったけど杞憂だった。でも、何となく意味はわかる、とリンは続けて笑ったから。
何があっても自分のものであり続けるものはあまり多くはない。その多くはないもののひとつが名前だと思う。
この名前がすべてを繋いでいるのだと確信に似たものを感じている。いくつもの世界と人を繋ぐもの。そして、わたしをわたしにする魔法の言葉。